「宇宙ジェット」のまとめです。

・宇宙ジェットの種類

・宇宙ジェットの歴史

・宇宙ジェットの特徴

・宇宙ジェットの構造

・ジェットを持つ天体の事例

 マイクロクエーサー

・ジェットの物理的な性質

 超光速運動、相対論的ビーミング、電波ローブ

高密度天体は物質を吸い込み輝くだけでなく、高速に物質を放出していることが明かになってきました。高速で吹き出している状態を「アウトフロー」と呼んでいます。 

宇宙ジェットとは高密度天体の中心から双方向に吹き出す現象で、広がらずに絞られたアウトフローです。高密度天体や原始星で観測されており、降着円盤により天体に物質が供給され、それがジェットとして吹き出していると考えられています。

[ジェットの種類]

原始星ジェット

 星間分子雲の中で生まれた原始星から双方向に吹き出す分子流で秒速十数kmの速度で宇宙空間に流れ出ています。

系内ジェット

 天の川銀河内にあるX線連星のブラックホールから相対論的な速度で吹き出しています。

活動銀河ジェット

 100万光年もの長さにわたり銀河核から虚空に伸びていく相対論的な流れです。

 

[歴史]

それは宇宙ジェットが活動銀河で発見されたことに始まります。第二次大戦後に電波干渉計が発明されて「電波ローブ」(二つ目玉電波源:目玉が二つあるように見えるでそのようにいわれています)が発見されました。そして二十世紀後半におとめ座銀河団の中心部と「電波ローブ」を結ぶ細い橋「電波ビーム(ジェット)」が発見され100万光年もの長さになる「活動銀河ジェット」の全容が明かになりました。

これを契機に多くのジェットがみつかりはじめ、銀河中心のX線源や系内ブラックホール天体でもジェットが見つかり、激変星、白色矮星などの近接連星系からも秒速3000kmから秒速5000kmのジェットが確認されました。ちなみに、銀河系内の高密度天体を含む近接連星系から吹き出すジェットを「系内ジェット」と呼びます。

原始星でのジェットはミリ波COスペクトル観測によって発見されました。ガンマ線バースト(※1)は核実験観測衛星「VELA」により二十世紀中葉に発見されました。理由については明確ではありませんが、高温のプラズマがジェット状に吹き出しているのではないかと推測されています。

※1 ガンマ線バースト: 天文分野で最も光度の高い物理現象

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ジェットの模式図

[宇宙ジェットの特徴]

様々な天体でジェット現象が起こっていますが、それらには共通する点が多くあります。ジェットを構成しているものは水素ガスなどと観測されていて、それによりジェット本体は電子と陽子イオンからなるプラズマと考えられています。ジェット天体の代表といわれるSS433の主天体であるブラックホール(もしくは中性子星)からは光速の26%になるジェットが吹き出しており中程度の相対論的であるといわれています。

活動銀河においても光速の99%ぐらいと推定される超相対論的なものもあり、ガンマー線バーストという天体においては光速の99.99%という極端に超相対論的なものもあります。このような観測的な事実があるのですが、説明が難しい現象と捉えられています。それを以下に三つあげます。

<明確でない機構>

加速度構造

 宇宙ジェットが光速に迫るものも珍しくありません。どのような機構でそこまで加速できるのかメカニズムがわかっていません。

収束構造

 宇宙ジェットはとても細長い形状をしています。例えとして『10kmにもなる水流の先端が100mぐらいしか広がらない』といわれていますがその謎は解明されていません。

エネルギーの源

 重力エネルギーが関与していることは確実ですがその機構を明確にはできていません。 

   

  ◆

 

[宇宙ジェットの構造]

宇宙ジェットの動力源は降着円盤であるといわれています。そこで降着円盤の機構を解析してみます。

まず、外部環境から低エントロピーのガスを取りいれて、降着円盤で重力エネルギーに変換処理して高エントロピーの熱や放射を外部環境に捨てます。そしてガスは宇宙ジェットとして極方向から物凄いスピードで吹き出します。

このジェットは、構成される元素組成や磁場、ジェットの形態(太さや長さなど)などの情報がある貴重な構造物です。

宇宙ジェットを持つ代表としてSS433がありますが、途方もない長さのジェット構造が超新星の残骸であるW50(マナティ星雲)の形を変形させています。

星間分子雲の構造と進化に大きな影響を与えており、宇宙に対するインパクトがどれほどかはこれから解明されて行くと思います。

そして、宇宙ジェットを持つ高密度天体は沢山あり、そのジェットのスピードを生み出す機構は大体は説明がつきますが、SS433のような光速の99.99%にもなる速度を生み出す機構はわかっていません。

[ジェットを持つ天体の事例] 

<マイクロクェーサー>

SS433は双葉状に広がった電波超新星残骸W50の中心天体です。SS433の両側には輝線があり162日周期で変わることが発見されました。

放出されるガスが双方向に光速の26%で飛び出していき、ドップラー効果により観測点に対して離れて行く方向には長波長側に、向かってくる方向では短波長側にずれることがわかっています。

それは162日周期で歳差運動していることが確認されました。

左右に伸びたジェットは約40分角(50パーセク※1)におよび、超高温の軌跡からX線を放射をしています。それは太陽全放射エネルギーが4 × 10^26 J/sとすると、その10^7倍以上といわれ10^33W(ワット)以上を放射していることになります。

※1:パーセク 距離を表す計量単位  3.085 × 10^16 m (約3.26光年)

SS433の模式図

 

発見当初このSS433は特殊な天体と思われていましたが、今では数多くの同様な系内ジェットが観測されています。

活動銀河核で観測されるこのようなジェット(相対論的ジェット)がスケールの小さい系内ブラックホール天体でも起きており、そのスケールはジェット質量として10億倍オーダーとして8桁以上も異なりますが、このような同じような物理現象が起きているのです。

系内ジェットは現在「マイクロクェーサー」と呼ばれています。厳密にはブラックホール天体に限られるようですが中性子星を含めて相対論的ジェット天体の総称として使われています。

マイクロクェーサーは降着円盤とジェットの時間的発展を調べるのにクェーサーよりも最適な天体です。例えばクェーサーであるM87では1000年かかる現象をマイクロクェーサーでは数分で観測できます。スケールが異なっていても同じ物理現象が起きている恩恵にあずかっています。

<活動銀河核からのジェット>

相対論的ジェットは質量によらないブラックホール天体の普遍的な現象です。

電波銀河」は活動銀河の一つです。放出されているジェットをほぼ真横から見ていると考えられています。それは100kpcにおよぶジェット構造をもちます。

 このジェットは宇宙空間の濃密なガス空間にぶつかることで電子加速が発生し「ノット」と呼ばれるものが色々な波長で輝きます。この「ノット」とはジェットが複数の塊に分かれて見える構造のことをいっています。「ノット」では電波からX線にわたりシンクロトロン放射(※2)がおきていると考えられています。~100TeVのエネルギーを持つまで加速されていることを示します。

 ジェットの終端はホットスポットとなっていて明るく輝いています。このホットスポットを「ローブ」と呼ばれていますが、この電波領域ではシンクロトロン放射が、X線域ではコンプトン散乱(※3)が観測されています。

※2:シンクロトロン放射

   光速に近い速度の荷電粒子(主に電子)が磁力線の周りを円運動または螺旋運動しながら進むときに放出される電磁波

※3:コンプトン散乱

   X線を物体に照射したとき、散乱X線の波長が入射X線の波長より長くなる現象 

  

  ◆

 

[ジェットの物理的な性質]

<超光速運動>

 超光速運動とは、中心核近くのジェットの電波構造体が光速以上の速さで中心核から遠ざかって運動しているように見える現象です。それは見かけ上の現象で、実際に光速以上で動いているわけではありません。

これは、ジェットの速度が光速に近くジェットが吹き出す方向と視線方向(天体から観測者への方向)とがほぼ一致しているときに起こる現象です。

 

式)

 

以下に関しては超光速運動に関する上図を参照してください。

左下にあるクェーサーの中心核から光るガスが速度vでP点に向かったとします。

観測者の視線方向とガスが向かった方向のなす角度をθ、クェーサーの中心と観測者の距離をd、クェーサーからガスPへの距離r、ガスPから垂線が接するところをQとします。

このとき、PQをy、クェーサー中心からQをxとします。

クェーサー中心からガスが出発した時刻を t = 0 とします。その瞬間にクェーサー中心から発した光が観測者に届く時刻t1は t1 = d/c になります。

一方、ガスがPから発した光が観測者に届く時刻t2は、ガスがクェーサーからPへ移動する距離をrとすればそれに要する時刻は r/v、Pから観測者までの間を進むのに要する時刻は (d – x)/cとなります。

従って t2 = r/v + (d – r cosθ)/c となります(x = r sinθを使用) 。観測者は、時刻t1と時刻t2の間に、ガスがQP間の距離yだけ移動したように見えるので、見かけの速さはuとなります。

これに数値を代入して見たのが下の計算式となります。 

 この式の右辺端の式において、v = 0.9c (c:光速)、θ = 10°

 として、計算すると 1.4cとなります。

 見かけ上は光速を超えることになります。

<相対論的ビーミング>

 放射されるジェットが光速に近い高速運度をしているときは、特殊相対論効果によって、ジェットの運動方向から見ると放射の強度が強くなる現象があります。これはビーミングと呼ばれる現象です。

速度が光速度に極めて近く、大きなローレンツ因子をもつジェットは、相対論的な光行差によって光線が前方へ集中します。ローレンツ因子をγとするとγ4倍(4乗倍)明るくなるようです。

このようなビーミング効果が観測できる天体を「ブレーザー」とよびます。

ブレーザーはクエーサーを正面からみた状態を観測したものと考えられています。

<電波ローブ>

クェーサーなどで発見された「電波ローブ」(二つ目玉電波源)ですが、相対論的ジェットにより作り出されています。

中心核から放出された相対論的ジェットは、中心核近傍では一様でない部分を衝撃波(内部衝撃波)で蹴散らしますが、平均的な流れは相対論的な速さのままで進みます。そして、最終的に周囲の物質と衝突して衝撃波(外部衝撃波)を形成します。それにより作り出されたものが電波ローブです。

観測されている電波ローブの年齢は10^6~10^8年ほどとされています。これから考えると、電波銀河(非常に明るい電波を放出する活動銀河)の大きさは300Kpc~30Mpcほどで形状は非常に長いものになると予想されますが、実際には100kpcほどで形状は球に近いです。

電波銀河ではジェットの先端部分にホットスポットと呼ばれる明るい領域がありますが、ここが衝撃波発生の場所であることを示しています。

ジェット本体は相対論的速度で進みますが、ホットスポットは光速の1/10~1/100程度です。衝撃波面ではジェットの運動エネルギーが散逸され、それにより物質の温度上昇や粒子の運動エネルギーの増加 – 粒子の加速 – が発生しています。 

このように、ジェットを構成する物質は「コクーン」と呼ばれる卵形の領域に閉じ込められて高圧な状態となります。この圧力は周囲の物質の圧力よりも高く、熱膨張しながら周囲の物質に衝撃波を伝播させています。これは超新星爆発の残骸の進化(吹き飛ばされたガスの進化)と似ているといえます。

  ◆

  

以上、宇宙ジェットについてでした。

arakata
masakappa@gmail.com

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