エディントンは知らなくてもチャンドラセカールを知っている人は
 

 多いのではないかと思います。それは、チャンドラセカールが1983年に
 

 ノーベル賞を受賞して、世界的なビックネームになったからでしょう。

 

 

 1920~1930年代において、もっとも優れた一般相対性理論の専門家は
 

 アインシュタインとエディントンでした。しかし、この二人はブラック
 

 ホールのような考えは拒否的でした。そうです、アインシュタインで
 

 さえもです。
 

 彼ら二人から見たとき「正しい」とは思えなかったのでしょう。
 

 


 そこにチャンドラセカールが現れます。
 

 



 サー・エディントンの経歴については前回に簡単にお話しましたので、
 

 ここではチャンドラセカールの半生を綴ってみようと思います。
 

   ◆
  
 [チャンドラセカールの半生]
 

 スブラマニヤン・チャンドラセカールは17歳でインドのマドラス大学の
 

 門をくぐり、数学や物理学、化学などの勉学に励んでいました。
 

 天才児です。
 


 

 この年に世界的な権威であるゾンマーフェルト(※1)がマドラスの地に
 

 訪問すると聞き、約束を取り付け、彼が泊まるホテルへ出かけていきます。
 

 「君が学んだものは過去のものだ」
 

 そして世界は新しいフェーズに入っていることを聞き知らされます。
 

 「量子力学」です。
 


 

 旧来の物理法則と暫定的な量子力学の法則は、簡単なケースでは非常に
 

 よく一致したのですが、より複雑なケースでは矛盾なくまとめることが
 

 できませんでした。
 


 

 

 しかし、もっと洗礼された量子力学を使用すれば、美しく織り上げる
 

 ことが可能であると証明されつつありました。
 

 


 ゾンマーフェルトは、彼の非凡ならぬ才能を知ったのだと思います。
 

 別れ際に書き終えたばかりの自身の論文の校正刷を渡します。
 

 チャンドラセカールはこの論文を読み、理解して、関連する論文を
 

 むさぼるように読みました。
 


 

 1930年に19歳で学士を取ったチャンドラセカールは、ケンブリッジ
 

 大学大学院に入ることになります。師は当時、天文学では重鎮であった
 

 サー・エディントンです。
 

 


 マドラスからイギリスのサザンプトンへと船で向かいます。
 

 その18日間の船旅で歴史に残る論文を書きます。
 

 それが、
 

 「1.4太陽質量を超える白色矮星は存在しない」ことをまとめた
 

 論文です。


 1.4太陽質量を超える白色矮星は中心核を支えることが出来ずに


 「ブラックホール」になってしまうのです。
 
 

 

 この論文が後にエディントンとの確執を生み、
 

 そして、ノーベル賞を授かることになるのです。
 

 


 激しくぶつかるのは、1935年、チャンドラセカールがイギリスに
 

 来て5年目のことでした。
 

 


 王立天文学協会での発表会でエディントンはチャンドラセカールの発表を
 

 徹底的に否定する論調で演説したのです。
 

 突然のことでチャンドラセカールは衝撃を受けました。しかし、その
 

 内容は彼から見ると全くのハリボテで、間違っていることは確実
 

 でした。
 

 


 しかし、天文学会の重鎮であるサー・エディントンの言葉です。誰も争う
 

 ことは出来ないでしょう。
 


 

 若きチャンドラセカールはエディントンとの戦いで大いに傷つきました。
 

自分の研究が全く信頼されていないと感じたからです。
 

彼は分野を変えて研究に勤しむことにしました。
 

 

 ※1 ゾンマーフェルト
   偉大な科学者であり教育者として知られている。
   弟子にはパウリやハイゼンベルク、ベーテなどがおり、
   また「ボーア・ゾンマーフェルトの量子条件」などの
   業績を残した。
 

   ◆
 

 優れた人でも自分が信じることに反することには、恐ろしいほどの
 

 チカラで否定するのだなと思いました。
 


  
 私生活ではエディントンはチャンドラセカールに対して愛情を持って
 

 交流していたそうです。
 

 自分の科学的信念とプライベートは別と考えていたのでしょう。
 

 でも、信念と付き合いは別と言われても、、、、。
 


 

 チャンドラセカール、さぞかし大変だったろうなぁと思ってしまいます。
 

 

 エディントンとチャンドラセカール、
 

 二人の天才に関するお話でした。
  
 
arakata
masakappa@gmail.com

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