一般的考察の続きです。
・シアー流に働く粘性力
x軸方向に平均速度\(u_y\)が変化しているような平行シアー流において、摩擦がどのように表されるかを考察します。
<平行シアー流>
\(f_y\) = (表面積ΔA)×(高さΔx)を持つボックスに働く単位体積あたりの粘性力を求めます。\((f_y:単位体積あたりの粘性力)\)
まず、ガスの運動を平均成分とランダム(熱運動)成分とに分けます。
v = u + w、u ≡ 〈v〉
粘性に関わるのは、右辺第二項のランダム成分 w です。
ここで、x方向の熱運動を考えます。
y方向の運動量を持ったガス粒子が、単位時間あたりに ~ \(\frac {nw} 2 \)個、上面を横切り、平均自由行程 \( l_{mfp} \)の距離を移動したのち、他の粒子と衝突して運動量を交換したとします。
・粒子数 \(\frac {nw} 2 \)個
・\( n:数密度(m^{-3}) \)、w:速度(m/s)
=> \(\frac {nw} 2 \):粒子数(衝突数)
・下面から上面に向かう粒子と逆向きの粒子があるので、\(\frac {1} 2 \)と考える。
・運動量の変化
\(Δp_x \approx 2m×l_{mfp} \frac {∂u_y} {∂x} (u_yのx成分を表す) \)
運動量の変化についてみていきます。
ボックス上面における単位時間あたりの運動量の変化は、
\( [(\frac {nw} 2 × 2ΔA)m×l_{mfp}\frac {∂u_y} {∂x}]_{x+Δx} \)
= \( [(nwΔA)m×l_{mfp}\frac {∂u_y} {∂x}]_{x+Δx} \)
ボックス下面における単位時間あたりの運動量の変化は、
\( [(\frac {nw} 2 × 2ΔA)m×l_{mfp}\frac {∂u_y} {∂x}]_{x} \)
= \( [(nwΔA)m×l_{mfp}\frac {∂u_y} {∂x}]_{x} \)
この差分が、考えているボックス内の全運動量の変化がかかった摩擦力に等しいことになります。
\( f_yΔAΔx \approx [\frac{∂} {∂x} (mnwl_{mfp} \frac{∂u_y} {∂x} )]ΔAΔx \)
以下のように置き換えます。
\( f_y = \frac {∂π_{xy}} {∂x} \)
\( π_{xy} \)はシアー・ストレステンソルのxy成分でx軸に垂直な面に働く単位面積あたりの力のy成分を表します。
このとき、
\( π_{xy} ≡ ρυ\frac {∂u_y} {∂x} \)
ρ≡ m×n (m:質量、n:数密度)
\( ν (運動論的粘性) ≡ w×l_{mfp} (w:ランダム速度、l_{mfp}:平均自由行程) \)
※運動論的粘性:粘度と密度の比(μ/ρ:\( m^2 \)/s)
※この後で分子粘性のことが出てきますが、
そこでは分子粘性はρ×wで考えています。
・粘性ストレスの表現と起源
(a)平行シアー流に働く粘性
上述をまとめて、
x軸方向に\( u_y \)が変化しているような平行平面流に働く摩擦力のy成分は
単位面積あたり:\( π_{xy} \) = ρν\( \frac {∂u_y} {∂x} \)
単位体積あたり:\( f_y = \frac{∂π_{xy}} {∂x} \)
となります。
(b)差動回転流に働く粘性
r軸方向に\( u_φ \)が変化している回転リングに働く摩擦トルクは、平行シアー流における結果を座標変換して得られます。
<<幅Δrのリング>>
<①r軸に垂直な面の単位面積あたり>
座標系を円筒座標系に変更します。
\( π_{rφ} = η( \frac {1} {r} \frac {∂u_r} {∂φ} + \frac {∂u_φ} {∂r} – \frac {u_φ} {r} ) \)
これから、
軸対象と考えて\( \frac {∂} {∂φ} =0 \)とするので、第一項は消えます。
\( π_{rφ}= η( – \frac {v_φ} {r} + \frac {∂u_φ} {∂r} ) \)
となります。そして以下のように記述し直します。
\( rπ_{rφ}= rη( r \frac {∂} {∂r} ( \frac { u_φ} {r} ) ) \)
ここで、
η= ρν
\( Ω’ ≡ \frac {dΩ} {dr} = \frac {d} {dr} (\frac {u_φ} {r} ) \)
から、
\( rπ_{rφ} = ρνr^2Ω’ \)
となります。
<②リング面全体:図においてリングの内側の面>
\( G(r) = 2πr \int rπ_{rφ}dz = 2πr ・νΣr^2Ω’ \) (①の式を代入)
ここで、Σ ≡ \( \int ρdz \) としました。
<③リングの幅Δrあたり>
\( r F_φ・Δr = \frac {dG(r)} {dr} ・Δr \)
\( π_{rφ} \)は、シアー・ストレステンソルのrφ成分です。
r軸に垂直な面に働く力のφ成分を表しています。
G(r)は半径r内にあるリングと外にある隣のリングとの境界面全体に働くトルクを表します。
基本方程式を考えるときには、このG(r)を用います。
(c)円盤における粘性の起源
前回あげた二つ目の疑問に関して考えます。
(観測を説明できるほどの強い粘性は存在するのか?)
角運動量の輸送のタイムスケールを見るために、
分子(熱)運動に伴う粘性を考えます。
粘性を見積もってみます。
分子粘性は、
\( ν_{mol} ~ v_{mol} l_{mfp} ~ 10^{-1} m^{2}/s \)
\( 分子の速度c_sは10^4 m/s、円盤の密度ρは10^{-5} kg/m^3とすると、分子粘性は以下のようにも求めることができます。 \)
\( ν_{mol} ~ v_{mol}×ρ ~ 10^{-1} m^{2}/s \)
宇宙における流体は非圧縮性の近似が使える場面は少ないようです。だいたいは圧縮性流体として扱われます。この圧縮性流体では、波動は粗密波として伝播しその微小振動は「音波」と呼ばれます。以下の式で表すことができます。
\( c_s = 10 (\frac{T} {10^4 K})^{1/2} km s^{-1} \)
このように、音波は温度で表せます。
宇宙の流体は大部分は水素なので、一般的には温度が\( 10^4 \) K以下ではガスは中性状態です。\( 10^4 \) K以上では電離状態となるようです。
\( 10^4 \) Kは宇宙流体を扱う上で重要は値のようです。
これより粘性の時間スケールは、
\( t_{vis} = r^2 / ν ~ 10^{17} s \)
\( ここで、rは円盤サイズを10^8 mとしました。 \)
\( 年に直すと、(3600 × 24 × 365 = 3.15 × 10^7 yrを使う) \)
\( 10^{10} yr \)
ガスがブラックホールに落ちるまでに100億年かかります、、、
分子粘性は全く効かないことがわかります。
現在では、粘性は「磁気乱流」であることがわかっています。動力学的粘性を特徴づける「長さ」は、平均自由行程ではなく系の長さ(円盤の場合はその厚さ)になります。
乱流粘性は、
\( ν_{turb} ~ v_{turb} l_{turb} ~ c_sH ~ 10^9 m^2 s^{-1} \)
です。
このとき、\( 音速c_s 〜 10^4m s^{-1} 、\)
\( 円盤の厚み H = 10^5m、\)
\( 円盤のサイズ r = 10^8 m \)
で求めました。
分子粘性に対して乱流粘性は10倍になります。
従って粘性の時間スケールは1年となります。
現実的な数値となりました。
これが前述 2)「観測できるほどの強い粘性はあるのか?」の答えとなります。
観測できるほどの強い粘性は「乱流粘性」によって発生していると考えられています。
◆
次回から式をたてていきます。