ブラックホールはなぜ光る? 1.球対称降着流の続きです。
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球対称降着では明るい降着円盤を実現できませんでした。
その理由は、
・密度が小さくて放射が出にくい
・放射を出すまでもなく、ガスは短時間で高密度天体に落ちて行く
です。
これを解決するとして、ガスが高密度天体の周りを回りながら落ちていくという案が考えられました。
では、円盤降着としていかに効率よく光を放射できるかを考えていきます。
キーワードは「角運動量」と「粘性」になります。
降着円盤モデルとして「標準円盤」というモデルがあります。このモデルの確立は、提唱したシャクラやスニアエフなどの先人の努力の賜物です。
この「標準円盤」の発展を流れに沿って進めていきたいと思います。
1.一般的考察:物理機構として何が効いているのか
2.式をたてる:物理過程を数式で表し基本方程式を構築する
3.式を解く:テクニックを駆使して解を求める
4.解を調べる:主に定常解の性質を調べる
「一般的考察」を初めていきます。
・中心力場におけるテスト粒子の運動
高密度天体の周りのガス塊(質点)の軌道運動を考えます。
ガスの塊は\(-\frac {GM} r \)で与えられる点ポテンシャルの周りを楕円運動します。楕円運動の特徴は、単位質量あたりの角運動量(\( l=rv_ψ \))とエネルギーです。角運動量が与えられたときに最もエネルギーが最小となる安定な運動はどのような運動でしょうか。軌道の離心率はエネルギーが減少するほど離心率も小さくなります。従って、角運動量を固定してエネルギーが最小となる運動は円運動です。
円運動において重力と遠心力が釣り合う式は以下のとおりです。
\( m(\ddot r – r \dot ψ^2) = – G \frac {Mm} {r^2} \)動径方向の加速度は円運動では考えないので無しとします。
したがって、
式1)\( – r \dot ψ^2 = – G \frac {M} {r^2} \)
ここでケプラーの第二法則から、
\( r^2 \dot ψ = l = 一定 \)\( \dot ψ = \frac {l} {r^2} \)
この式を式1)に代入すると、
\( \frac {l^2} {r^3} = \frac {GM} {r^2} \)を得ます。
この式を変形すると、
式2)\( r_{circ} = \frac {l^2} {GM} \)
となります。
この関係式から、ガス塊が角運動量の値に応じて決まる半径\( r_{circ} \)上の円軌道を運動することがわかります。しかし、ガス塊は遠心力で高密度天体に落ち込むことができないので、これではガスが降着できません。そこで、粘性です。粘性は二つの重要な働きをします。
(1) 角運動量の輸送:粘性によりガス降着が始まる
(2) 摩擦熱の発生:粘性によりガスが暖まり、暖まったガスは熱放射をする
これにより、円盤降着では次のようにエネルギー変換が行われます。
重力エネルギー → 熱エネルギー → 放射エネルギー
ガス円盤がただの円盤かそれとも降着円盤であるかは粘性が効くかどうかによります。そこで疑問が二つ出てきます。
1) 粘性があれば、いつでも降着は可能?
2) 観測できるほどの強い粘性はあるのか?
・粘性の働き
a)平行シアー流の場合
平行シアー流とは何か。
ある直線境界を隔てて、二つの速度の異なる流れがある状況をいいます。
この状況で1)について考えます。
平行シアー流として、水平方向の境界の上に遅い流れ(速度v1)、下に早い流れ(速度v2)があるとします。このとき粘性が働くとどのようになるでしょうか。
<<図1 平行シアー>>
境界には摩擦が生じます。遅い流れからみると加速する方向へ、速い流れから見れば減速する方向に、摩擦がそれぞれに働きます。ニュートンの第二法則から、質量mの物体に力Fが働くと加速度aが生じます。
\( mα = F、a ≡ \frac {d^2x} {dt^2} \)このようになると思います。
ですが、ここでは力積で考えてみます。
\( \frac {ΔP} {Δt} = F、p ≡ m \frac {dx} {dt} \)摩擦力が働いた結果、遅い流れでは運動量が増え、速い流れでは運動量が減ったと考えられます。全体の運動量は保存するので、運動量は、早い流れから遅い流れへ輸送されたことになります。運動量をもらった遅い流れは速度が増し、失った早い流れは速度が減り、全体として流れは均一化されていきます。つまりは摩擦は発生するけど一時的なものでおわってしまうようです。
b)差動回転流の場合
では次に差動回転流というものを考えます。
作動回転流とは、ある円周境界を隔てて二つの速度の異なる流れがある状況をさします。外側に遅い流れ(速度v1)、内側に早い流れ(速度v2)があるとします。
実際のケプラー回転をみると、遠心力と中心重力のつりあいは、
式3)\( \frac {GM} {r^2} = rΩ^2 = \frac {l^2} {r^3} \)
上式から、
式4)速度\( v_ψ = \sqrt{ \frac {GM} {r} } \qquad \) 内側ほど大きい
角速度\( Ω = \sqrt{ \frac {GM} {r^3} } \qquad \) 〃
式5)
角運動量\( l = \sqrt{GMr} \qquad \) 外側ほど大きい
※ケプラー回転:恒星に近い「内側ほど早く」、「外側ほど遅く」公転する様。
<<図2 差動回転流>>
平行シアー流と同じようにまずニュートン第二法則を考えてみます。
しかし、回転流なので、力の代わりに「トルク」、運動量の代わりに「角運動量」を使用します。
すなわち、質量mの物体にトルクr×Fが働くと、角運動量r×Pが変化します。
\( \frac {Δ(r×P)} {Δt} = r × F \)摩擦トルクが働いた場合、角運動量が速い流れ(内側)から遅い流れ(外側)へ輸送されます。角運動量をもらった遅い流れは速度を増し失った速い流れは遅くなって行く、、、、ではないようです。
角運動量が速い流れ(内側)から遅い流れ(外側)へ輸送されるまでは正しいのですが、その後は式2)から角運動量が増すと円軌道の半径が増加していきます。半径が増加すると式4)から速度が落ちることがわかります。
従って、ガスは内向きに降着
角運動量は、外向きに輸送
ほとんどのガスは角運動量を失って内向きに移動していき、ガス降着が実現します。一方、角運動量を少量のガスに担われて外向きに輸送されて円盤は広がって行くというシナリオです。
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今回は以上です。
次回は、「ブラックホールはなぜ光る? 2.円盤降着流の基本 その2」です。
数式で考えるところがどんどんと出てきたので時間がかかりそうです。😅