降着円盤のまとめです。
・ロッシュローブ
分離型、半分離型、近接型
・降着円盤とは
・降着円盤のモデル
標準円盤モデル、高温降着流モデル、超臨界降着流モデル
◆
高密度天体は輝くことはほとんど無く、どんどんと冷えていくので観測することが非常に難しい天体です。しかし、近接連星系の高密度天体ならば観測することが可能かもしれません。それは伴星からのガスの流入により高密度天体の表面もしくは降着するガスからエネルギー放射することで観測することができるからです。
ちなみに夜空に輝く恒星の半分以上が連星系と言われています。
[ロッシュローブ]
近接連星系を分類すると
分離型
半分離型
接触型
の三つがあります。
近接連星系の恒星が二つの場合、二つの恒星の間にはポテンシャルが鞍点の場所が存在します。この場所を通る等ポテンシャル面をロッシュローブといい、8の字を描いたように見えます。接している部分は重力と遠心力が釣り合っている場所でラグランジュポイントと呼ばれています。(分離型の図を参照してください)
・分離型
近接連接系の二つ恒星のどちらもロッシュローブ内を満たしていないもの。恒星があまり近接していない場合はこのようになります。
・半分離型
片方のローブ内を恒星のガスが満たしているもの。下図の場合は左から右のロッシュローブにガス輸送が起こります。
・接触型
両方のローブ内をガスが満たしているもの。合体した形になるのでこのガス内でエネルギーの輸送が行われます。それにより、表面温度が異なる星同士でも、星の表面温度は一定となります。
このとき共通の外層を持つ。
通常、高密度天体は主系列星などの天体と近接連星系となるので、半分離型、分離型で輝くことになります。
半分離型では伴星のガスがロッシュローブ内を満たしているので圧力によてラグランジュポイントから高密度天体に流れこむことになります。そしてガスは高密度天体の周りをまわりながら降着円盤となります。(伴星は回転しているので高密度天体に流れ込むときはまっすぐに落ちるのではなく、ぐるぐると回りながら降着していくのでガスのリングが高密度天体にできます)
分離型の場合は伴星がロッシュローブを満たしていないのでガスが高密度天体に流れ込むことはありません。しかし、半分離型ような工程ではなく伴星が重い恒星(巨大な恒星)の場合その表面からガスが絶えず吹き出ているので、このガスの一部が高密度天体に降り注ぎ降着円盤となることがあります。
接触型は半分離型以上のダイナマックな状況になると考えられています。
[降着円盤とは]
高密度天体の周りにあるガスは回転しながらゆっくりと落ちていきガスの円盤を構成します。これを降着円盤といいます。
高密度天体の重力ポテンシャルにただガスが落ちていくだけならば輝くことはありません。エネルギーの流れとしては、 重力エネルギー → 運動エネルギー です。
重力エネルギーがガスを輝かせるための放射エネルギーに変換されるには何が必要なのでしょうか。ガスが高密度天体の周りをまわる降着円盤になればよいと考えました。
内側ほど早く回転しているガスは十分な粘性を持っていると、ガスが持つ角運動量は内側から外側へと伝わり、その分角運動量を失ったガスは遠心力が減少するので内側へと降着していきます。
角運動量を外向きに輸送するので降着円盤にガスをより多く巻き取ることが可能になり、また摩擦により運動量を放射エネルギーにすることが可能となります。
しかし、摩擦を発生させる粘性を定義することができませんでした。
通常、粘性は
平均自由工程 × 分子運動の速さ
で求まります。
しかし、平均自由工程 のオーダーでは運動量の輸送効率が悪く、全く粘性として効きませんでした。
そこで考えられたのは、 乱流 でした。乱流状態はその渦のサイズと乱流運動の速さをかけあわせて定義します。これを現実の降着円盤にあてはめると観測に沿う結果が得られました。近年では 磁場 でも観測結果に沿うことがわかってきています。
これにより、
重力エネルギー → 熱エネルギー → 放射エネルギー
と変換されていきます。
降着円盤は、重力エネルギーが粘性により摩擦となって熱エネルギーになり、そして放射エネルギーなります。これにより高密度天体は光り輝くことになります。
◆
[降着円盤のモデル]
<標準円盤モデル>
ガス降着に伴って解放された重力エネルギーが放射エネルギーに変わり降着円盤が輝くモデルです。このモデルでは放射により温度が下がるので圧力が下がり、降着円盤は垂直方向に縮み幾何学的に薄なります。
このモデルは粘性項を入れたナビエ-ストークス方程式(※1)をベースにしたものを解いて得られたものです。これから導かれる標準円盤の特性は以下になります。
※1:流体力学で使用される2階非線型偏微分方程式
・回転軸に対して軸対称
・ガスは天体のまわりを高速で回転するので天体への降着は長くかかる
・降着円盤は薄い
・降着円盤は黒体放射をする
・重力エネルギーは効率よく放射エネルギーに変換される
[高温降着流モデル]
標準円盤モデルでは説明できない高エネルギー放射や激しい時間変動を説明するモデルとして出てきました。現在有望しされているモデルは放射が非効率な降着流モデルでRIAF(ライアフ)と呼ばれています。
このモデルは低密度のガス流の場合、放射があまり出ないのでガスは高温になります。高温になると粘性が上がり角運動量の輸送効率が上がり、角運動量を外向きに輸送することでガス降着がよくなり円盤が広がっていきます。降着速度が自由落下速度くらいまで大きくなります。そして重力エネルギーの解放により発生した熱は高速なガス流にのって中心天体へ運ばれていきます。
このモデルの特性は以下になります。
・回転軸に対して軸対称
・ガスは中心にむかって螺旋状に高速で落下していく
・降着円盤は回転軸方向に膨らむ
・重力エネルギーは主にガス内に溜められる
・降着円盤はシンクロトロン放射(※2)や逆コンプトン散乱(※3)などの様々な放射過程で輝く
※2:シンクロトロン放射
シンクロトロン放射とは円環状の加速器により磁界内で荷電粒子が光速に近い速度で円運動または螺旋運動するときに放射される電磁波のこと。
※3:逆コンプトン散乱
相対論的な速度で運動している電子と赤外線や可視光の波長の光子が衝突したときは, 電子のエネルギーの方が光子のエネルギーよりはるかに大きいので 電子が光子にエネルギーを与える。これはコンプトン散乱の逆になるのでこのように言われている。
[超臨界降着流モデル]
標準円盤モデルはエディントン限界光度(※4)近くの高光度で破綻します。降着率が高く光学的に厚くなります。その中で作られた光子は何度も吸収散乱を繰り返すのでなかなか円盤の外に出ていけません。そのため光子は降着ガスと一緒に高密度天体に飲み込まれてしまいます。このため重力エネルギーから放射エネルギーへの変換効率が悪くなります。
そこでこの光子補足効果を取り入れたスリム円盤モデルが提唱されました。モデルとしては高温降着流モデル(RIAF)に似ていますがそれほど高温にならず放射的には標準円盤モデルに近いものです。
降着円盤の光度が上がりエディントン限界光度に近づくと内側の半径(高密度天体と降着円盤の内側との距離)が見かけ上小さくなります。標準円盤モデルでは内側の半径は一定なので光度が上がると破綻していました。そこを上手く取り入れたモデルです。今後期待されているモデルです。
※4:エディントン限界光度
外側への放射圧と内側への重力とが釣り合う最大光度
◆
以上、降着円盤のモデルに関する雑学でした。
参考文献:
「ブラックホールと高エネルギー現象」 小山勝二・嶺重 慎著
「ブラックホール天文学」 嶺重 慎著