事象の地平面を越えた宇宙飛行士は生きているのか死んでいるのか、気になるところです。小さなブラックホールでは事象の地平面に入る以前に、大きな潮汐作用で動径方向に足と頭が引き延ばされ横は圧縮されてスパゲッティ化されてしまいます。

 大きなブラックホールだと事象の地平面では生存可能な潮汐力です。クェーサーの真ん中に鎮座する太陽質量の100億倍のブラックホールでは、事象の地平面を越えても十数時間ほどは生存できそうです。

 ブラックホール内部ですが、そこに特異点ができるのか、それともできないのか。特異点論争がありました。

 星が完全な球体など理想化された状態ならば、ブラックホールの中心に無限大の潮汐作用を持つ特異点が作り出されると予想するアインシュタイン方程式の解、オッペンハイマー-スナイダー解があります。この解の特異点は全てのものを飲み込むとされています。

 アインシュタイン方程式の別解として、ライスナー-ノートシュトレーム解は電荷を持ち、ブラックホール化するとその中心部は我々の宇宙から捥ぎ取られて- 捥ぎ取られた泡状のものが- 別の宇宙(もしくは同じ宇宙の別の場所)に開放される(爆発発散される)。このように予想されていました。

 どちらの解が正しいのかはよくわかりませんでした。

 これに対して、ブラックホール形成は小さな摂動に対して不安定で決して特異点ができたりはしないという、ハラトニコフ-リフシッツの主張がありました。

 そこにペンローズが登場します。ペンローズ・タイルのペンローズ、「皇帝の新しい心」のペンローズです。数学屋でしたが物理屋でもある彼は、トポロジー(位相数学)を用いて説いたのです。それは、星の爆縮において光が逃れられないほどに重力が強くなると、もはや重力が特異点を作るのを妨げるものはなにもないと述べました。この定理は想像しうる全てのブラックホール化する星を扱っています。相対性理論にトポロジーを用いることで成し遂げられたのです。ペンローズの特異点定理といいます。

 特異点は回避できないものでブラックホール内には特異点が存在するとわかりました。では、強大なブラックホールの事象の地平面を越えた宇宙飛行士はどうなるのでしょうか。生存可能、不可能?

 ブラックホールが若い出来立てのホヤホヤならば、激しい潮汐作用で直ぐに即死です。しばらく経ったならば、もう少し生きられる。十分に時間がたったならば特異点までいけるかもしれません。そして特異点に接することで死ぬはずですが、十分な議論がまだされていないので、よくわかりません。また、ライスナー-ノートシュトレーム解の特異点が別宇宙へ吐き出される件もよくわかりません。 これらについては量子重力理論の完成が待たれるところです。

 もしかしたら、特異点を越えて新たな宇宙にいけるかもしれませんね。

参考:

arakata
masakappa@gmail.com

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