「降着円盤と高密度天体」のまとめです。

・白色矮星連星系

 激変星 / 磁場の弱い激変星 / 磁場の強い激変星 

・中性子星連星系

 大質量X線連星、小質量X線連星

 X線パルサー

 X線バースト

・恒星質量ブラックホール

 ブラックホール連星系

・大質量ブラックホール

  

      ◆

 

[白色矮星連星系] 

 激変星には以下の種類があります。

 激変星は白色矮星と普通の恒星の近接連星系です。

白色矮星の種類_20200308.PNG

[白色矮星]

<激変星>

近接連星系の白色矮星は伴星のガスがその表面に降り積ります。この現象を質量降着といいます。

激変星は変光星の一種で、明るさが数秒から数年のタイムスケールで激しく変動するのが特徴です。伴星は大概は太陽のような主系列星になります。この近接連星系は軌道周期が80分~9時間と非常に短く、二つの星の距離は太陽の直径に収まるほどで、オーダーとしては10^8-10^9mほどになっています。かなり狭い範囲なので驚きです。

<磁場の弱い激変星>

磁場が弱い白色矮星では降着円盤が惑星表面まで達します。

 

・古典新星

増光は可視光の等級で8-20等まで様々です。減光は一ヶ月から数年程度で見えなくなります。

この現象は伴星から質量降着によって白色矮星に降り積もった水素が、強い重力によって高温高圧状態になりこれにより熱核反応を起こすために発現するものです。このような過程で行われるので十分な水素が降り積もるのには数千年~一万年と見積もられています。“空の異変”について古書に残っているものが少ないのは発生周期が長いためと考えられています。

 

・再帰新星

増光の仕組みは古典新星と同じです。古典新星で二回目の新星爆発があったものを再帰新星と呼んでいます。現在までに十個ほど観測されておりサイクルは20-80年です。軌道周期は18時間-460日と普通の激変星に比べてかなり長いです。

この白色矮星の伴星は赤色巨星です。それにより降着する水素が普通の激変星に比べて一桁高いことが知られています。これにより古典新星よりもタームが短いと考えられています。

 

・矮新星

アウトバースト(急激な増光現象)を示す激変星です。その増光は可視等級で2-5等程度です。爆発の再帰周期は1-3ヶ月で再帰新星よりも更に短い周期で爆発しています。

爆発現象を起こすのは白色矮星本体ではなく降着円盤で起きていることがわかってきています。矮新星のような質量降着が低い星では、円盤の外縁部は温度が数千Kの中性状態の水素と温度が10^4kで電離した状態の水素がそれぞれ安定した状態で存在しています。外縁部の低温の状態から高温の状態に遷移するときに円盤を満たしているガスの粘性が上がり、白色矮星への質量降着率が一気に増えて爆発するというメカニズムです。

矮新星は上述のように降着円盤で主に放射をしています。もう少し詳しく見ると円盤の外縁部では可視光で光り、内側では紫外線を放射しています。更に降着円盤が白色矮星の表面に届くと、このとき円盤内で起きているよりも強い摩擦が発生します。これにより紫外線よりも短い波長のX線を放射するというメカニズムのようです。

 

・新星様変光星 

伴星からの降着率が高いため降着円盤の外縁部は常に高温の状態になり、それにより常に爆発している状態に見えます。このような天体を新星様変光星といいます。

 

・りょうけん座AM型星

激変星の中でも軌道周期(公転周期)が短い星系で、最短のものでは5分という短さです。これほど軌道周期が短いものはおそらく二つの恒星の距離も小さいと予想されます。従って伴星は普通の恒星ではなく、同じ白色矮星もしくは水素を使い果たしヘリウムで核融合している恒星と考えられます。

  

<磁場の強い激変星>

この激変星は磁場が強く中でも磁場が10Tを超えるものを強磁場激変星とよんでいます。磁場が強いため降着円盤が出来難いです。

 

・ヘラクレス座DQ型星(中間ポーラー)※1

降着円盤の物質は暖められることで電離され、この電離ガスが強い磁場に当たると磁力線の周りを旋回しはじめます(ラーモア運動)。このため、降着物はこの磁力線をよぎって白色矮星に落ちることができません。従って降着円盤は磁場の圧力と円盤のガスの圧力が釣り合うところで終わります。これにより行き場を失った降着流は白色矮星の磁力線に沿って極方向に移動しそこに降着します。降着流は柱状になります。これを降着柱と呼びます。降着物はこの柱内を自由落下して超音速流となり表面間近で衝撃波となります。このとき硬X線を放射します。そしてこの硬X線の幾らかが磁極の表面を照らすことで軟X線を放射することになります。衝撃波は白色矮星の表面まじかで発生するのでX線は自転により観測者から見え隠れします。X線の強度は自転と同期して変動します。

※1:白色矮星の公転と自転が同期しているものをポーラー、同期していないものを中間ポーラーとよぶ

・ヘラクレス座AM型星(ポーラー)

磁場が強すぎるため伴星から流れ来る降着物は降着円盤を作れません。降着物は降着円盤を作らず磁場に沿って白色矮星の磁極に到達します。そこに降着柱が発生して白色矮星の表面近くで衝撃波が形成されX線が放射されます。X線はヘラクレス座DQ型星と同じように変動します。

 

      ◆

 

[中性子星連星系]

銀河系にはX線を発する天体が数百個存在します。多くが中性子星と恒星の近接連星系になります。そのメカニズムは白色矮星と同じですが物質の降着により重力エネルギーが解放されてX線を放射します。

中性子星連星系から放射されるX線は膨大なエネルギーを持っています。放射は短時間(一ミリ秒以下)で変動することがあります。それから放射源のサイズを予測すると 光速 × 一ミリ秒 → 300km と求まり、サイズは300km以下と予測されます。

伴星からのガスは中性子星に捕えられ重力で加速されます。ガスが中性子星表面まで落下するときに(例えばガス内の陽子が落下するとすれば)発生する運動エネルギーは約100MeVと試算されており、これは水素が核融合で核子1個当たり解放されるエネルギーの7MeVを遥かに凌いでいます。

中性子星から放射された光子は降着円盤のガスの電子に散乱されることでガスに外向きの力を与え、これに対して中性子星の重力がガスに対して内向きの力を与えます。このように放射の圧力(光子によるもの)と重力が釣り合うときの光度をエディントン限界光度と呼びます。これは汎用的な現象で星はエディントン限界光度を越えて光ることはできせん。

 

中性子星連星系は伴星の質量により二つに大別されます。

<大質量X線連星>

大質量X線連星は、伴星が太陽質量の10倍以上のOB型星(※)です。OB型星の年齢は10^7年以下なのでこの連星は若い種族になります。

※OB型星:スペクトル型がOまたはBの温度が高く重い恒星

・X線パルサー

大質量X線連星はX線強度が周期的に変動するX線パルサーになります。周期はミリ秒から十数分の範囲です。中性子星はとても強く磁化しておりそのオーダーは10^8Tです。

降着ガスは円を描きながら中性子星に流れ込みます。このとき磁場の圧力がガスの圧力と釣り合うところでガスは堰き止められ、そのガスは磁力線に沿って移動し両磁極に流れ込みます。そして磁極に落ちた物質は加熱されてX線を放射します。磁極が中性子星の回転軸に対して傾いている場合は、星の回転と共に磁極も回転するので遠くにある観測点から眺めると見えたり隠れたりします。これがパルスの正体です。

 

<小質量X線連星>

伴星が暗くて見えないほど小さく太陽質量以下です。これを小質量X線連星といいます。この小質量の星の年齢は(5-10)×10^9年と古い種族になります。

・X線バースト

少量X線連星系では中性子星に降着円盤ができます。円盤は中性子星の表面近くまで届き、中性子星に近づくほど温度が高くなります。円盤に降着したガスは重力エネルギーの半分を黒体放射として解放しています。そしてガスが中性子星の表面に降着すると残りのエネルギーが解放されて黒体放射でX線を放射します。この解釈により少量X線連星系のスペクトルが二つの黒体放射で説明できました。

少量X線連星系には特有な現象としてX線バーストがあります。数秒から数十秒の間隔でX線域で爆発的に輝く現象です。バーストの間隔は数時間~一日です。バーストのスペクトルは黒体放射のスペクトルに合い、黒体の温度はバーストのピークで10^7Kに達してX線の強度が下がるに連れて温度も下がります。一回のバーストで放出されるエネルギーは10^32Jに及びます。

X線バーストの原因は降着円盤での現象ではなく中性子星の表面で起きる熱核融合反応です。この反応により大量の熱が瞬時に発生して表面からX線が放射されます。これがバーストの要因です。

熱核融合は水素燃焼(4H→He)→ヘルウム燃焼(3He→C)となります。核融合反応で核子1個当たり解放されるエネルギーは1MeVになます。一回のバーストで放出されるエネルギー10^32JをMeVに変換すると6.24×10^43MeVとなり、これに対して物質1Kgのエネルギーは5.6 × 10^28MeVなので6.24×10^43MeVをこの値で割ると、観測されたX線バーストのエネルギー量から1回のバーストで約10^15kgの降着物(火星のダイモス程度の質量)が燃焼したことになります。

 

     ◆

  

[恒星質量ブラックホール]

・ブラックホール連星系 

今まで見てきたように高密度天体である白色矮星や中性子星は存在することは確かです。従ってそれよりも高密度なブラックホールは高密度天体を持つ連星系を探すことで存在を確認することが出来るはずです。

<ブラックホールの探し方>

・X線源の多くは高密度天体と恒星の連星系であることは分かっています。この連星系で質量降着が起きていることも確かで、質量降着のメカニズムを見てきましたが、その過程でX線を放射することは明らかでした。

・上記によりX線源を同定できれば、その軌道運動を測定することが可能です。これにより質量が求まるので、太陽質量の三倍以上ならばブラックホールであることがわかります。

・ブラックホール連星系であることがわかれば、他の高密度連星系との差異がわかるのでブラックホールの特異性を見つけだすことが可能になります。

 白色矮星や中性子星は降着円盤の内縁まで運ばれたガスがその星の表面にぶつかり運動エネルギーを放射して解放されます。しかし、ブラックホールは物理的な表面がないので内縁に運ばれたガスは事象の地平面に消えていきます。この辺がブラックホールの特徴として現れる、光度の差として現れていると考えられています。

<X線と降着円盤モデル>

 ブラックホール(X線連星系)のX線源はハード状態とソフト状態を示すことがわかっています。

 ハード状態は質量降着率が低くてX線光度がエディントン限界光度の数%未満で発生します。このときの降着円盤はシュバルツシルト半径の数百倍からかはじまり、そこから内側では幾何学的に厚く光学的には薄い高温降着流モデルと考えられています。

 またソフト状態は質量降着率が上がりエンディントン限界光度が数%を超えると発生します。従って光度は比較的明るいです。降着率が上がると降着円盤の密度が上がって放射冷却が効くので、これにより降着円盤は平たくなり幾何学的に薄く光学的に厚い標準降着円盤(標準円盤モデル)となります。

 このように、恒星質量ブラックホールの降着円盤は質量降着率(ガスの流入)の変化により二つのモデル(高温降着流モデル/標準降着円盤)を状態遷移します。

 ブラックホールでは降着円盤の内縁に近づくにつれて一般相対論が効きはじめ最小安定軌道(シュバルツシルト半径の3倍)から内側では安定な円軌道は存在しなくなります。従ってRin(降着円盤の内縁半径)= 3Rsとなります。ここより内側ではガスは質量降着してX線を出す暇もなく事象の地平面に消えていきます。ここでちょっとした計算をしてみます。

 ブラックホールにおけるシュバルツシルト半径は以下の式で求めることが出来ます。

 Rs = 2GM/c^2  → 2.9(M/Ms)[km]

 Gは重力定数、Mは恒星質量、cは光速、Msは太陽質量

 ブラックホール連星LMC X-3という連星系ではブラックホール質量は観測から(6-9)Msと予測されています。またこのブラックホールのRinは50Kmである事が観測からわかっています。

  Rin = 50km → 3Rs = 50Km

  Rs ≒ 17km

  M = RsMs/2.9 = 17/2.9×Ms ≒ 6Ms

 このように観測結果とは矛盾しません。

従って光学観測を行うことでブラックホールの質量を推定することが可能になりました。

   

[大質量ブラックホール]

大質量ブラックホールは数多の銀河中心に存在します。質量が降着することで活動銀河核となります。X線強度は10^34 – 10^40Wとかなり高く、自身の銀河の全波長の光度を凌ぐほどです。

 

<I型セイファート銀河> 

比較的近傍にある活動銀河核です。私たちから約数千万光年にあります。放射に対して大きな減光がないので銀河中心を調べるのに適しています。(近傍である理由は、強い輝線があるが、その波長が実験室おける水素などの線とズレがないため)

<II型セイファート銀河>

可視分光観測(波長の吸光度の変化からその物質を同定すること)で幅の狭い輝線だけが検出されるセイファート銀河です。しかし、濃い物質に隔てられた明るく輝く銀河核が発見され、そのX線光度はI型セイファート銀河と同じでした。これによりII型セイファート銀河が隠された銀河核を持っていることがわかってきました。

I型、II型の違いは、どのように活動銀河核をのぞいているかによる。

NLR:幅の狭い輝線を放射している輝線領域

BLR:幅の広い輝線を放射している輝線領域

 

I型セイファートはダストトーラスの上部あたりから降着円盤中心部やBLRを覗き込む(BLRとNLRの両方がみえる) 

II型セイファートはダストトーラスの方向から降着円盤中心部をみる(NLRのみみえる)

 

活動銀河核は太陽系ほどの領域が銀河系に匹敵する莫大なエネルギーを放射していることがわかってきました。それほどのエネルギーを出すにはどんなブラックホールがあればよいのでしょうか?

銀河と同程度に輝くにはブラックホールに毎秒10^21 – 10^22Kgオーダーの物質が降着出来れば可能です。毎秒月ぐらいの物質が落ち込んでいることになります。このブラックホールの大きさは太陽質量の1億倍と考えると2.95 × 10^8Kmと予想されます。 

  

    ◆ 

 

以上が降着円盤と高密度天体に関するお話でした。

 

参考文献:

「ブラックホールと高エネルギー現象」小山勝二・嶺重 慎著

「ブラックホール天文学」嶺重 慎著

arakata
masakappa@gmail.com

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